カロスの憂鬱

今だけは…

虚心坦懐

はぁ。と息を吐く。

浅いため息と言ってもいいだろう。

「今日も一日何もしなかった」

平穏を極める高校生としてはそれも良しではあるだろうが、もう入学から1年も経つのにこれといって『友達』もいない。

相手にどう思われているかは知る由もないが。

現代の人間の多くは『友達』という言葉を安請け負いしすぎでは無いだろうか?

とは言っても学校で常に1人で居るのも虐めなどを心配されて変に先生との会話をしなければいけなくなっても面倒臭いので一応それなりに話す級友と共に過ごす。

1人でいると心配される、というのもただのスポットライト効果に他ならないとは思うが、一応。

周りの人間と関わるのはとてもとても無駄なことに思える。

などと言っている奇人は恐らく世界に多くは無い。

口は災いの門という言葉がある。意味を悪意のある捉え方をすると、「あまり人と話をするものではない」と捉えることもできる。

それほど合点のいく意見ではないだろうが自分の生活信条に合うのであれば異論も受け入れることはないだろう。

時刻は16:40を少し回ったところ。いつもより大分早い帰宅だ。家に近づく頃には夕陽も綺麗な頃合だろうか。今日は、というかいつも特に残って済ませる用事もないので学校が終わり次第帰路にはつくが、大抵は皆が通る下校ルートである大通りから1,2本外れた小路にある喫茶店で時間を潰す。最近知った店では無い。思い入れの特にない中学校を卒業した春休み。数少ない友達と見つけた秘境だ。

こんな辺鄙な所にあるせいもあるだろうが、店内にはいつも人は見えない。

俺がここの店に来た時に他の客と居合わせたことなど片手で数えられるほどしかないのでは無いだろうか。

尤も、周りに人間が何人いようとあまり気にしない質なので本当はもっと人の来る店なのかもしれない。

今日も行けば開いているだろうしマスターもいつものように話してくれるだろうが、今日ばかりはそこまで遠回りして寄る気分では無い。

何しろ疲れた。身体的にではなく、精神的に参った。特に何もしていないとはいったが、何もしてなくても周りの声は否が応でも聞こえてくる。流石にクラス替え無しの2年生となってはごく少数派を除いて皆仲良さげに話しているが、時にその声は度を超えて大きく甲高い声になって聞こえてくる。耳栓の一つや二つ持ち込みを許可してくれてもいいとは思うが。第一、校則には持ち込みの可否は書かれていない。しかしそんなもの着けてまで学校生活を送りたくは無い。出来るだけ穏便に振る舞う。これは揺るがせてはならない信条だ。心得ておこう。